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舘岩旅情の華やぎ『裁ちそば』
 芭蕉が「明月やまず蓋とってそばをかぐ」と示すように、そばは舌ざわりと香りがポイントです。新そばがもてはやされるのは、そのためですが、今では貯蔵法が工夫されて、年中おいしく食べられるようになりました。
  手打ちそばは、そば粉をひく、こねる、水加減、のす、包丁さばき、ゆでる、冷やす、食べるまでの間、つゆの味とつけ加減、すすりこみ…と、ステップごとの技の差を聞き分け、食べ手もリズムを合わせるのが楽しみです。微妙な裁ち加減でその日のうま味を決めていくので、ソバのできはのどを越してみなければわからないといいます。イワナやシメジ、ワサビ、サンショウの葉、ダイコンなど山河の幸は、ほのかな野趣のひきたて役。ちなみに「生そば」の「生」は純正の意でナマのことではありません。
 
舘岩の味
 
『栃餅』
 乾燥した栃の実を熱湯に2昼夜ぐらい浸して皮をむきます。さらに野趣をやわらげるため、4〜5日ぐらい冷水にさらし、灰汁の湯に3晩くらい漬けて渋を抜きます。実を蒸すまでにざっとこれだけの経験と手間を要します。かすかな苦みを含むまろやかな味には、山里に育まれてきた食習の知恵と、村人のもてなし心が秘やかににじんでいます。
   
『ことじ』
 山野の幸と海の干物の味覚を煮染めた華やぎは、のどかな村里一番の賑わい・村祭りの接待や祝い膳に欠かせません。その「事日」が語源ともいわれています。里芋・人参、きくらげ、するめ、竹輪…、それに「つと豆腐」は野の味をしのばせてなつかしい味です。この豆腐はワラに包んで煮たもので、細かい穴はスポンジ状の凍み豆腐と同じ役割をもっています。
   
木地師の里の味覚『ばんでい餅』
 十五夜の月見、山の神への供えものなど、節目についたウルチ米の餅で、じゅうねん味噌をつけて炭火で焼きます。「ばんでい」は盤台の意らしく、木地師たちが木材に即席の臼を削りこんだのに由来するといいます。味は淡泊で素朴ですが、じゅうねん=荏胡麻の香ばしさが忘れられません。
   
寒の味覚『つむづかり』
 2月の初午(はつうま)の頃、木賊温泉あたりを訪ねると、大根おろしに鮭の頭や炒り豆を混ぜ、鮭粕と酢味で煮た奇妙な料理に出会います。古来の風習「すむつかり」の仲間で、雪国ならではの「寒」の味。冷えるほどに味がしみておいしくなります。いつの頃にか、道祖神やお稲荷さまのお供え料理になったといわれています。関東では「しもつかり」と称しています。
   
伝説を喰む『赤かぶ』の即席漬け
 古代の焼き畑農法そのままにお盆に種をまき、収穫は晩秋。霜が降るたびにうま味が増し、ゆでるほどに甘味を増します。1週間ほど塩漬けにしてから酢漬けにすると白味が赤く染まります。根部と茎を混ぜた即席漬けも、酢と砂糖を加え漬け直します。シャキシャキとした舌ざわりを楽しみながら、かぶねり等カブづくしの昔語りをなつかしむことができます。
   
そば餅の『はっと』
 そば粉をこねて練り、じゅうねん=荏胡麻やきな粉をまぶしたものです。そのおいしさから、ふだんは「法度」−振舞いの日のみ料理してもよい−の意のようです。江戸期に、切りそばの料理法が誕生する以前の食で、モチ米の粉の混ぜ具合がおいしさのコツです。荏胡麻は縄文人の食文化に欠かせなかったといいます。
   
帝釈山脈の山懐は山河の幸の宝庫
 舘岩は、関東と東北を隔てる帝釈山脈の山ひだの中にあり、北限と南限の生物の宝庫。郷土料理はその旬の香りにこだわり、野趣の粋を集め、熟成したまろ味を愛しむことができます。